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――道しるべとなる出会い―― あとがき 岩永竜一郎 神田橋先生のお弟子さんの愛甲さんとお会いしたのは、昨年の七月でした。今思うとお恥ずかしいのですが、私はその時まだ神田橋先生のことをよく存じませんでした。愛甲さんが特別支援教育に対してバランスのよい考え方をお持ちでしたので、きっと良い指導をされている先生なのだろうという想像をしていた程度でした。 そんな私に愛甲さんが熱心に神田橋先生のことをご説明され、文献をくださいました。私はそれをわくわくしてではなく、どんな内容だろうと確かめるように読んでみました。最初に読んだ時の正直な感想は感銘と疑問が入り混じったものでした。書かれている内容の多くには感銘を受けました。精神科医であり、統合失調症、双極性障害、PTSDなどへの対応方法を明快に提起しながらも、発達障害のことをびっくりするぐらい腑に落ちる表現で説明されていたことには感嘆せざるをえませんでした。誰もが説明に詰まるようなことを、ここまで的確に表現できるのか、と何度も同じところを読み返しながら感動したことを覚えています。ただし、その一方で今まで聞いたことがない処方や対応方法が書かれていたため、疑問を感じた部分もありました。つまり、この時点では柔軟そうで素晴らしいセンスを持った先生そうだけど、どこまで仰っていることを受け入れられるだろうかと疑問に思っていました。 このあと、私は浅見さんとやり取りをしながら、神田橋先生が書かれた御本を読み重ねました。それからは驚きの連続でした。神田橋先生の御本を読みながら目から何枚の鱗が落ちたかわかりません。そこには精神疾患がある方への理解、対応の仕方のエッセンスが凝縮された含蓄のある言葉が並んでいました。きっと、この先生の治療には深い洞察と柔軟な思考、多くの治療経験に基づく検証、患者への慈愛が反映されているはずだと思えるようになりました。こんな素晴らしい先生とお会いできるという機会に巡り合えるとは、なんて幸せだろうとこの時になって実感しました。そして、本を読み進めると同時に、色々な場で出会った精神科医に神田橋先生のことを伺ってみました。すると、異口同音にあの先生はすごい、日本の精神科医の第一人者でありカリスマであるという答えが返ってきました。神田橋先生の本は精神科医の教科書であるし、先生の臨床はすべての医師が見習うべきものだ、あの先生が言っていることは間違いなく精神科医にとって大切なことだ、とも言われました。私が話を聞いた精神科医の先生は臨床医、研究メインの方など様々でしたが皆そう仰るのです。話を聞けば聞くほど、すごい先生であることがわかってきました。そんな先生がなぜ私に会ってくださるんだろうと不思議に思い、緊張しながらお会いする日を迎えました。 実際に神田橋先生にお会いして最初に驚いたのは先生のお人柄でした。あれだけの功績を残し、日本の精神科医療を引っ張っている方であるにもかかわらず、威厳を振りかざすという態度は微塵も感じられませんでした。私とも気さくに話してくださりました。そして、人の話をよく聞いてくださる方であることもすぐにわかりました。藤家さんの話を聞く時の真剣なまなざしは忘れられません。先生が当事者から学ぶことをとても大切にしていることが感じられました。それから、神田橋先生のお話を聞かせていただいて最も印象に残ったのは臨床家としてのスピリッツでした。当事者の話を重視していることもそうですが、対象の方に役立つものをどん欲に取り入れ、その治療を発展させていこうとする姿勢には驚かされました。臨床家として心から尊敬できる方であるとあらためて感じました。 神田橋先生には、学ぶべきことばかりで、今回の本は対談というより、先生に教えを請うという内容になりました。でも、結果的にはそれで良かったのではないか思っています。お話の中で、私が長年疑問に思っていたことに明快な御回答をいただきましたし、これから私が歩むべき道を示してくださいました。この本の中で神田橋先生が語ってくださったことは、私だけでなく、自閉症の人を支える家族や臨床家の多くに非常に役立つ内容になっていると思います。 それから、この本は精神科医の先生方に発達障害のある人への対応に関する示唆を与えるものだとも思っています。最近、発達障害に関心をお持ちの精神科医の先生が増えています。しかし、そのような先生方も発達障害への治療や対応には苦慮されており、道しるべとなる情報を求められています。そのような先生方にとって本書は有用なものになるのではないでしょうか。 この本に書かれている神田橋先生のお言葉の一つ一つを読者の皆様と共有できることを喜びに思います。私は今回の神田橋先生との出会いを人生の宝だと思っています。神田橋先生には貴重なお話をいただけたことを心から感謝したいしだいです。 また、このような素晴らしい勉強の機会ができたのは、愛甲さん、藤家さん、浅見さんのおかげでもあると思っています。ご三方にも紙面を借りてお礼申し上げます。 |
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